ケアステーション モーニング カンファレンス
創傷処置 ①水疱形成について

 

日時:2003年12月18日 8:00~9:30AM
場所:ケアステーション
参加者(敬称略):村木、黒澤、戸塚、長田、富田、中尾、網田
■水疱形成までのメカニズム ~マメはどうしてできるのか?~
 表皮と真皮の間に滲出液がたまった状態が水疱、いわゆるマメと言います。これは、身体表面に過剰な力がかかり、表皮面が接触する物体に固定された状態で真皮との間に剪断力が加わり、表皮と真皮が引き剥がされ、その間に滲出液が溜まる事によって出来るものです。つまり、足に合わないシューズをはいたときに踵や母趾球が擦れたり、テニスラケットなどを持ちつづけて極端に皮膚と接触することが多い部分が擦れることによって引き起こされます。
※滲出液とは炎症により局所の血管透過性が亢進し、毛細血管から組織内にもれ出た血漿成分から成る。この中には皮膚再生に作用する、たんぱく質でできた細胞を多く含んでいる。
『水ぶくれ』というのは、この滲出液が漏れ出て表皮が隆起している状態のことです。

<ディスカッション>

①机など固い面に指を強く押し付け、何度も繰り返し擦り続けたとしたら?

  ⇒動かない机に押し付けた指にはその押し付けている面の表皮と真皮の間で剪断力がかかり、水疱が形成されます。
②一方の手背部を反対側の母指で強く擦ってみる。もし、長時間擦り続けたとしたら?

 (手背部と母指のどちらに水疱ができる?)

  ⇒摩擦力に応じて動くことのできる柔らかい手背部の皮膚に対して、皮膚が硬く動きが少ない母指の皮膚は、一点に集中した手背部との間の摩擦力を分散できず、その結果、母指のほうに水疱が形成されると考えられます。

皮膚の解剖
  皮膚は、外部刺激(物理的刺激、紫外線、熱など)から身体を保護したり、体温調節といったはたらきをしています。大きく表皮、真皮、皮下組織に分類されます。
  ⅰ)表皮
 
  皮膚の一番上の層で身体の表面を覆っています。約28日のサイクルで新陳代謝が繰り返されています。代謝の低下などにより角質層で古い細胞がうまく除去されなければ表皮は厚みを増し、その下の層との間に水疱が形成されやすくなります。
  ⅱ)真皮
 
  表皮の下にある厚い層で毛細血管、脂腺、汗腺などがあります。皮膚の張りや弾力に大きく関与し、脂腺から分泌する皮脂は汗腺から汗と一緒に出て表皮(角質層)をやわらかくする作用をもちます。
  ⅲ)皮下組織
 
  真皮と身体内部組織の間にある部分で、外部の刺激から筋肉や骨格を守る組織です。脂腺の分泌を調節するホルモンが皮下組織に作用し、上層での皮脂の働きをコントロールしています。

■水疱の予防法
(結論)表皮と真皮の間に発生する剪断応力を生じさせなければ良い。
↓と、いうことは…
(予防策)摩擦による剪断応力を分散させる。
 
◎あらかじめ水疱を形成させないようにすることを考えて予防に備えてみましょう!
 
  ⅰ)ソックスを2枚重ねて履く
 
  1枚目に綿製の厚手ソックスを着用します。これは靴の中で生じた湿気を吸収させる目的があります。次にその上から薄手ソックス(ポリエステル素材など)を着用します。2枚のソックスの間で摩擦力を分散させて皮膚に直接かかる摩擦力や剪断力を少なくすることができます。
  ⅱ)パウダー塗布
 
  汗をかいて表皮が過剰に湿って潤いを増す(皮膚がふやけ、弾力もなくフニャフニャしている)と、接触面(ソックスなどの外部との接触による刺激)で摩擦力が強く発生し、剪断力を分散できず水胞が形成されてしまう。皮膚に直接パウダーを塗布し、さらにソックスの上からもパウダーを塗布して、足とソックス、ソックスとソックス、靴とソックスとの摩擦を軽減させる予防法もあります。
  ⅲ)角質層が厚くなっている場合は削る
 
  角質層が厚いと接触する外部からの圧迫力が、局部(角質が厚くなっている部位のみ)で強くなり、その結果水疱形成につながってしまいます。硬くなり突出した皮膚やタコなどは、専用のヤスリなどで削って水胞を形成させないように予防してみましょう。
 
■処置方法
  ⅰ)滲出液が抜けていない(マメがつぶれていない)場合
 
  滲出液は、水疱によって痛みが発生しないのであれば皮膚切開による感染のリスクを考えて無理に抜かないようにしましょう。
 
  ①患部にガーゼをあてる
  ⇒万一水疱がつぶれた場合に滲出液を吸収できるようにしておきます。
②その上から絆創膏やテープを強く圧迫しながら貼る
    ⇒圧迫することで患部への剪断力の発生を防ぎます。隆起している水疱はそのままにしているとプレー時に動いてしまい水疱がひどくなってしまう恐れがあり。さらに、患部にワセリンやパウダーなどをつけておくとより再発予防につながります。
  ⅱ)滲出液が抜けてしまっている(マメがつぶれた)場合、抜いた場合
 
 

水疱によって患部に痛みが生じ、競技中に支障をきたす場合は滲出液を抜くことがあります。滲出液は表皮に針を刺しますが、針の種類として二次感染予防を考え滅菌済の使い捨て注射針を用いるのが良いでしょう。鍼灸治療用の鍼で対応しようとすると、あけた穴が小さすぎて滲出液が抜けきれないないので、水抜き用の針としては適していません

※使い捨ての注射針は、医療用備品を販売している会社等で入手可能です。
 
 
  患部の洗浄、消毒
②患部にワセリンを塗り表皮の乾燥を防ぎ、表皮の再生に必要な湿潤環境を整えておく
③ガーゼをあて、発汗による余分な湿気を吸収させる
④その上から絆創膏やテープを強く圧迫しながら貼る
⑤水が抜けてしまい、表皮がはがれてしまっている時は、その表皮を取ってしまうと真皮に直接刺激が加わり痛みを出してしまうことと、真皮を乾燥させてしまうことになるため、切取らずに消毒洗浄後、ワセリンを真皮側に塗り、その上から蓋をするように覆いかぶせ、さらにその上からワセリンを塗り、ガーゼなどで覆う。

■競技策別での対策 ~各競技帯同トレーナーより~

 
(陸上・長距離)
  ・母趾球部、足趾、踵部の発生頻度が多い。
・痛みがひどく水を抜いたものや、表皮が剥がれてしまったものにはワセリンの代わりにきずぐすりを使用しています。(現場ではキップパイロール・オロナインH軟膏などをよく使用します。)
・セカンドスキンは走行中、シューズの中でずれることがあります。スキンケアなどの皮膚保護剤といったものは厚みがあり、ずれもなく患部の痛みも少ないのでよく使用しています。
(テニス)
  ・母趾球のほか、踵部、土踏まずの部分にも多く発生する。
・表皮が剥がれてしまったものにスキンケアを直接貼ると患部(真皮)にくっついてしまいます。貼る前に患部にワセリンなどを薄く塗ってから貼ると痛みなく剥がすことが可能です。
■その他
 

・多層水疱(水疱ができたさらに深層で新たに水疱が形成)の場合、中でできたと思われる水疱をしっかり圧迫し、広がる剪断力を防ぐようにしましょう。
・患部のイソジン消毒は、鎮痛作用が強く、鎮痛のためによく用いられます。
・水疱が治癒していく過程で、再生したての薄い表皮が乾燥しひび割れてしまうことがあります。これは治癒の遅延につながるため、患部の湿潤環境を整えることを徹底し、ワセリンなどを塗り保湿に努めましょう。
・放水加工のフィルムシートや、ダイナミックムービングテープウレタンまたはポリウレタン素材で、外気から表皮を守ることで乾燥を防ぎますダイナミックムービングテープ必要な大きさにカットして使用でき、趾先といった小さな部位にも自在に対応できます
・セカンドスキン、クリアサイトなどはその90%が水分でできています。保湿に優れる半面で浸透率が強く、皮膚にくっつき、結果的に皮がめくれやすくなってしまうこともあります。

<コラム>
このモーニングセッション中に、水疱形成時の患部の消毒ということについてディスカッションになりました。従来、水疱形成時には二次感染の予防を目的とした消毒を行っていました。しかし最近、消毒することで雑菌と一緒に皮膚再生に作用する細胞まで破壊してしまい、その結果治癒が遅くなるため患部は水で洗浄するだけでよいということ、また、傷口から出る滲出液(膿)は、治癒過程で出る、皮膚再生に作用するたんぱく質を含む細胞なのでガーゼを当てて滲出液を吸ってしまうことは良くないということ、従って水疱(創傷全般に言える)は消毒をしないで患部を乾燥させないようにすると良い・・・という新しい考え方が言われています。(『これからの創傷治療』参照)

 アメリカでは実際にこの考えに基づいての創傷治療(Scar Therapy)が行われていて、基本的に患部は潤いを保ち早く皮膚を再生させ傷跡を残さないように考えられているそうです。では、スポーツ現場における水疱形成時の処置についてはどうでしょうか?
 まず洗浄について、水で患部をしっかり洗浄するというのは最も手頃な手段であり、当然重要なこととして行ってきましたが今回のディスカッションで改めて洗浄徹底の大切さを認識しました。
 それでは、今まで何気なく行ってきた消毒行為はどうでしょうか?確かに消毒するという行為は、患部を乾燥させて 雑菌を寄せつけないようにするため結果的に皮膚再生に作用する細胞も殺してしまうことになります。しかし、スポーツの 現場では外の競技などで患部に付着した泥がとれないといったことがあります。こういったものに対して患部の異物を 取り除く目的であったり、水疱による違和感・不快感・痛みはパフォーマンスの低下にもつながるため、これらを軽減させる目的で消毒は有効なのではないでしょうか(消毒液には鎮痛作用もある)。
 また、患部にガーゼをあてるのは、膿を吸収し、患部を乾燥させるという意味合いよりも、運動中の汗などによる湿気のため表皮がやわらかくなりすぎることを予防したり、さらに外部からの異物の侵入によるニ次感染などを予防するという 意味合いのほうが強い気がします。また、コーティングを施された滅菌ガーゼなども売られており、ガーゼが患部に付着してしまうことを防ぎます。
 もちろん運動後の処置としてガーゼを外し、乾燥させず、潤いを保つ処置を改めて行うことを忘れてはいけないでしょう。
 要するに患部を洗浄・消毒したあとにいかに乾燥させないように処置を行い、治癒を早めるようにするかを考えること、そしてプレーに支障をきたさない処置を考えることが必要ではないでしょうか。

 スポーツ現場では常に早急な処置の判断を要求されます。その時に応じた最適な処置を選択できるように日頃から意識しなければいけません。一般に創傷というと軽く見られがちで、我々も『処置は簡単だ』と安易に考えてしまいがちですが、正しい知識がないばかりに治癒遅延につながったり再受傷を招いてしまったりします。 もう一度水疱(創傷)についてきちんと考えてみるといいのではないでしょうか。

(書記担当:網田 房子)
参考文献:『これからの創傷治療』  夏川 睦著   医学書院
http://www.wound-treatment.jp/